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札幌家庭裁判所 平成3年(少)245号 決定 1991年3月04日

少年 T・M子(昭48.12.28生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実及び適用法条)

司法警察員作成の平成3年1月23日付、同月31日付、同年2月20日付各少年事件送致書に記載の犯罪事実及び罰条と同一であるから、ここにこれらを引用する。

(処遇の理由)

少年は、前件虞犯保護事件により入鑑のうえ昨年11月14日に保護観察に付され帰宅したのであるが、自宅に落ち着いていたのは僅か1日だけで、その後は不良交友、暴力団事務所への出入り、夜遊び等を重ねるなか、本件児童福祉法違反事件(傷害事件は前件の余罪である)や覚せい剤使用・シンナー吸引等を行っていること等からすると、家に落ち着けなかったことについては少年のみの責任ではないにせよ、少年の非行性は深化しているとともに要保護性は極めて高いと言わなければならない。性格・行動面においては、行動力がありリーダーシップを取れる等の長所もあるが、負けず嫌いで虚栄心の強いこと、自己統制が弱いこと、気短かで攻撃的に出やすいこと、目標志向的姿勢や向上心に乏しく、享楽的刹那的な生活態度であること、自己の立場を有利にするためには友人も利用しようとする等身勝手な面のあること等の問題点を抱えている。保護環境は養父・実母であるところ、養父による中学時からの性的いたずらのため、少年は養父を毛嫌いしており、また実母は病弱であることもあって、少年の福祉中心の行動は期待できないこと等からして、保護者の監護力は低いと言わざるをえない。

以上のことからすると、今回は在宅処遇は困難であるから少年を中等少年院に収容のうえ、長期にわたる持続的・系統的な矯正教育により、更生に必要な生活技術や健全な生活習慣を身に付けさせるのが相当と判断する(なお、別途札幌保護観察所長宛に環境調整を要請するが、引き取り条件の早期調整や今後の親子関係のあり方の教示等について御協力をお願いしたい)。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 市瀬健人)

〔参考1〕 司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実

(平成3年1月23日付け)

被疑者T・M子、同A子、同B子、同C子、同D子は、触法少年E子(当時13歳)と共謀のうえ平成2年10月4日午前1時30分ころから同日午前2時30分ころの間札幌市豊平区○○××番地○○駐車場付近においてF子(当時16歳)がポケットベルの借用代を準備する約束をしたのにかかわらず借用代のお金を用意しなかったのに憤激して同所に車で誘い出して全裸にし顔面、腹部等に手挙で殴打、足蹴りしたりさらにカッターナイフで頭髪を切るなどの暴行を加えよって同人に全治2週間の顔面、背部、両上肢などの打撲、擦過創を負わせたものである。

(平成3年1月31日付け)

第一 被疑者T・M子は、Gと共謀のうえ、平成2年11用27日午後5時30分ころ、札幌市中央区○○××丁目地下鉄「○○駅」付近において、児童である高校1年生H子(昭和49年8月29日生)16歳が、18歳に満たないものである事の情を知りながら、T・M子において、同女に対し「あんた、ヤキ入れるよ」「H子、ちょっと乗んな。偉い人が乗っているからそそうのないようにね」等と申し向け、同所に停車したGが運転する車両の後部座席に同乗させ、もって、同日午後7時ころ、札幌市中央区○○××丁目××番××号ホテル○○×××号室において、同人をして、Iを相手に淫行させたものである。

第二 被疑者T・M子は、平成2年11月27日午後8時25分ころ、札幌市中央区○○×丁目×××番地××○○会事務所等において、児童であるH子16歳が、18歳に満たないものである事の情を知りながら、同女に対し「今日、あんたにIさんが、用事あるということにして、ここに残んな」「ちょっとここに待っていて」等と申し向け、同日午後8時30分ころ、同所において、同人をして、J21歳を相手に性交類似行為をさせ、もって、18歳に満たない児童に淫行させたものである。

第三 被疑者T・M子は、Jと共謀のうえ、平成2年11月30日午前2時30分ころ、札幌市中央区○○×丁目×××番地××○○会事務所等において、児童であるH子16歳が、18歳に満たない児童である事の情を知りながら、同女に対し「早くGのところへ行け」「行っといで、Gさん何もしないから、言うとおりにした方がいいよ」等と申し向け、同日午前2時45分ころ、同所において同人をして、G20歳を相手に性交類似行為をさせ、もって、18歳に満たない児童に淫行させたものである。

(平成3年2月20日付け)

被疑者T・M子は、Kと共謀して、Lから淫行する相手となる女の紹介を依頼されたことから、これを決意し

(一) 平成2年12月1日午後10時ころ札幌市中央区○○×丁目×××番地××○○会事務所において、児童であるH子(昭和49年8月29日生)16歳が18歳未満のものであることの情を知りながら、同女に対し

「H子、やらせてあげな」

「おやじ機嫌が悪いからおこったらこまる」

「だから、やらせたほうがいいぞ」

等と申し向け、平成2年12月2日午前0時10分ころ札幌市中央区○○×丁目×番地××号『コーポ○○』L方自室において、同女をしてLを相手方として性交させ、もって18歳に満たない児童に淫行をさせ、

(二) 平成2年12月7日午後10時ころ札幌市中央区○○×丁目×××番地××○○会事務所において児童であるM子(昭和49年7月27日生)16歳が18歳未満のものであることの情を知りながら同女に対し

「M子俺の立場も分かってくれ

1回でいいからおやじのところについてやってくれ」

「M子1回位やらせてやれ、へるもんでないでしょ」

等と申し向け平成2年12月8日午前3時ころ札幌市中央区○○×丁目×番地××号『コーポ○○』L方自室においてLを相手として性交させ、もって18歳に満たない児童に淫行をさせたものである。

〔参考2〕 環境調整命令

平成3年3月11日

札幌保護観察所長殿

札幌家庭裁判所

裁判官 市瀬健人

少年の家庭その他の環境調整について

少年 T・M子

昭和48年12月28日生(紫明女子学院在院中)

本籍 札幌市白石区○○××丁目×××番地××

住居 札幌市白石区○○××丁目××番××号

上記少年については、別添決定書謄本のとおり、平成3年3月4日当裁判所において中等少年院送致と決定しましたが、家庭その他の環境調整の必要がありますので、適切な措置が行われますよう、少年法24条2項及び少年審判規則39条に基つき、要請致します。

なお、少年の家庭その他の環境の調査結果及び環境調整に関する当裁判所の指示事項は、下記のとおりです。

第1少年の家庭その他の環境

1 家族関係

(1) 養父 T・K(40歳)

住居 少年に同じ 電話―なし

職業 大工

(2) 実母 T・K子(42歳)

住居 同上

職業 無職

(3) 実父 Y・S(44歳位)

札幌刑務所服役中

2 問題点

少年は、養父及び実母との3人暮らしをしていたのであるが、今回の入鑑中に判明したことは、少年が家庭に落ち着けないことの理由の一つとしては、養父による中学時代からの少年に対する性的いたずらがあり(養父も認めている)、少年は養父に対し嫌悪感が強く、拒絶状態にある。実母はこのことを知って、一時は離婚も考えたが、自分自身の病弱もあって現在決断できないでいる。また、少年は養父に対する嫌悪感の反動もあって、実父(○○組○○会○○組内○○組組長)に対しての親近感を強めている。詳細は別添調査票写し(編略)記載の通り。

第2指示事項

1 少年は、現在養父との養子離縁を希望し、仮退院時に実母が養父と同居している時は帰住先を保護会としてほしい旨述べているので、この点についての少年及び実母に対する意思確認、助言・指導。自宅に戻すことが不適当な場合に備えての帰住先としての保護会ないし住み込み稼働先の確保。

2 実父との今後の関わり方についての少年に対する助言・指導。

以上

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